モーション・トリオ&マイケル・ナイマン2010-05-01

ポーランドのアコーディオン三重奏団、モーション・トリオがマイケル・ナイマンの映画音楽を演奏しているCD(ナイマンのレーベル、MN Recordsからリリース)。アコーディオンでナイマン、というので、パスカル・コムラードみたいな、ちょっとかわいい感じになってるのかな…なんて先入観をもって聴きはじめたら、がっつり裏切られました。

1曲目《In Re Don Giovanni》は、マイケル・ナイマン・バンドのライヴでもオープニングで演奏される、べらぼうにテンポの速い曲(ふつうのオーケストラでいうと、グリンカの《ルスランとリュドミラ序曲》みたいなもの)。これを、バンドとほとんど同じ速度で、ほとんどアコーディオンだけでやってしまうのだからすごい。

以降の曲でも、タイトなリズムと、さまざまにニュアンスを変える音色で、アコーディオンに対するなんとなくゆるいイメージをあっさりぬりかえてしまう。知らずに聴いたらコンピュータの力を借りているとしか思えないだろう。演奏者のほうもそれはわかっているようで、わざわざジャケットに "This is 100% acoustic recording with no electronic effect of any kind." とただし書きがある。

6曲目の《If》は、日本のアニメ映画『アンネの日記』より(原曲は歌曲)。アニメの方はすっかり忘れ去られているけど、この曲は8曲目の《楽しみを希う心》(『ピアノ・レッスン』)なみに人気がある(フレットワークが坂本龍一のcommmonsレーベルから出したアルバム『ザ・シルケン・テント』にも収録されている)。ポーランドのミュージシャンとしては、やはりはずせない曲ということか。

アコーディオンによく似合う悲しい旋律の余韻を、振り切るようにして、景気よく《羊飼いにまかせとけ》(『英国式庭園殺人事件』)が始まるところが、私がこのアルバムでいちばん好きな瞬間。

モーション・トリオ、来日してます。2日の夜、ラ・フォル・ジュルネに出ます。ポーランドつながりってことでショパンの作品がメインですが、ほかのコンサートとはまったくちがうノリになることでしょう。もちろん行きますよ。

LFJ1日目、とりあえずモーション・トリオのことだけ2010-05-02

モーション・トリオ。5月2日22:00、東京国際フォーラム・ホールC。

ショパンの曲目がずらっと並び、間にちょこっと自作曲、というプログラムのはずが、実際にはほとんどが自作で、ショパンを譜面どおり演奏したのは1、2曲だった。やりやがったな(いい意味で)。有名な遺作の嬰ハ短調ノクターンは、わかるひとにはわかる驚きのアレンジが加わっています。4日の公演でも演奏されるかもしれないので、ネタバレは控えます。

マイケル・ナイマンとの共演アルバムに1曲だけ収録されている自作《サイレンス》も演奏された。このタイトルは、単に弱音が主体の曲ということではなく、アコーディオンの弱音に耳をすますことによって聴衆の側にもたらされる「静寂」という意味なのだということが、生で聴いてよくわかった。「本当に聴いてもらいたいことは小声で話せ」と誰かが言っていたのを思い出す。もちろん、聴衆が黙ってくれるのは、傾聴に値する内容があればこそ。

PAのたぐいは、やはりまったく使っていなかった。打楽器のかわりに、蛇腹を少し開き、カホンのようにあちこち叩くという技も披露していた。いまの小学校にはアコーディオンってあるんだろうか。音楽の授業でやったらかっこいいぞ。先生には怒られるだろうけど。

それにしても、こんなラフなコンサートだとわかっていたら(予想できなかった私がバカでした)、ツレも誘えばよかったなあ。ひとりだけ楽しんじゃってごめんよ。

LFJ2010私的ベスト32010-05-04

  1. モーション・トリオ
    今年のMVPは、だれがなんといおうとこの3人組だと思う。無料公演の空き枠にも何回も登場していたし、なんといっても聴衆の盛り上がりかたが半端じゃなかった。《In Re Don Giovanni》を生で聴けたのが、私にとっては今年最大のラッキー。
    この3日間で、日本での知名度と人気は急上昇したはず。来年もきっと参加してくれるでしょう。いや、来年といわずできるだけ早く再来日してほしい。
  2. 小林愛実
    5月2日18:30、丸ビル1階。弦楽四重奏をしたがえてショパンのピアノ協奏曲第1番の第1・第3楽章を演奏。
    15日のサントリーホールの予行演習兼宣伝みたいなものだったんだろうけど、こんなすごい演奏、無料で聴けちゃっていいの? となんか申し訳ない気持ちになりました。初々しくはないのにテキトーに流してもいない、という演奏は、ベテランでもなかなかできるもんじゃありません。山口でのびのびとピアノを弾き、感性をはぐくんできたんでしょうね。早く才能に目覚めたのだめ、という感じかな。上京したばかりのアイドルみたいな「ぱっつんぱっつん」ぶりも好感もてます。菅沼沙也にはならないように気をつけてね。
    炎上を招きかねない冗談はさておき、ピアノに向かっているときの気迫と、演奏後のトークで聴衆に「よかったらコンサート聴きにきてください」とほほえみかける無邪気な表情との落差にもやられちゃいました。演奏中は完全に別人格になってしまうところも、のだめと同じだな。あ、菅沼もそうか(蒸し返してどうする)。
  3. 映画「バッハの肖像」
    昨年のLFJの公演のハイライトと演奏者のトークだけで構成された2時間のドキュメント。鈴木雅明さんの、「ヨハネ福音書には一語たりとも意味のない言葉がない。バッハはその一言一句まで忠実に音楽化した」という趣旨の話のあとに、その音楽を誠実に再現しようとするBCJの《ヨハネ受難曲》が流れ、ほんの一部分だけの抜粋にもかかわらず、涙が出てしまった。
    そういえば、今年の東京国際フォーラムは、去年よりだいぶ空いていたような気がします。やっぱり日本人はバッハが好きなんだよ。バッハはこれからも何度でもとりあげてほしい。

というわけで、今年はショパンの宇宙のはじっこのほうでちまちま遊んでました。…ていうか、無料公演だけでも楽しめたかも(とほー)。

『チェイス〜国税査察官〜』第4回「復讐」2010-05-08

傑作『外事警察』から半年も経っていないのに、NHK土曜ドラマってすごいね。大がかりな設定や海外ロケばかりに目がいきがちだけど、話の作りこみかたがものすごく緻密で、毎回「そうつながるか!」とうならされてしまう。『東京ラブストーリー』の坂元裕二脚本ってどうなの、とナメてかかってた自分を猛反省しております。

主演はいちおう江口洋介だけど、えぐっさんよりARATAの存在感が強烈。これも傑作だった『リミット 刑事の現場2』の犯人役を上回る怪演。『ハゲタカ』的なハードなシーンとベタなメロドラマ的シーンとで見せる、演技の幅がすばらしい。

硬軟両極端、ということでは、音楽に菊地成孔を起用したのも大正解だと思う。エンディングの、夏木マリがオカマになったようなヴォーカル(歌を披露したのは初めて?)の病んだ感じも素敵。

今日の第4話では、いつにも増して重いシーンが続く中、斎藤工演じる若社長を紹介する雑誌記事のタイトルが「オトコマエ社長」…こういう地味な小ネタもNHKらしくて好きだな。